「第4の発達障害」とも言われる、発達性トラウマ障害ってなに?

適切な環境が二次障害を防ぐ

発達障害は親の育て方が原因ではありません。これは発達の専門家のだれもが認めるところです。

それと一見矛盾するように思われるかもしれませんが、発達に特性のあるお子さんにどう対応していくのがよいかを考える上では、ご家庭や通っている保育園・幼稚園もふくめて、そのお子さんが育つ環境をどう整えていくかが最大のカギとなります。

育つ環境がそのお子さんにとって適切なものでなければ、怒りの暴発や自傷、抑うつ、自尊感情の低下など、もともとの発達特性とは別の問題を新たに抱えることになってしまいます。これが二次障害と呼ばれるもので、この二次障害をいかに防いでいくかがとても大切なのです。

お子さんがどんな特性を持ち、どのように環境を整えれば二次障害を起こさず安心していきいきと毎日を過ごすことができるのか。それは同じ発達特性と言ってもひとりひとり違うので、ぜひ発達の専門家をまじえて一緒に考えていっていただけるといいと思います。

発達障害と見分けにくい発達性トラウマ障害とは

さて、ここから本題です。発達障害を疑われて、わたしたちが関わるお子さんたちの中に、落ち着きがないなど、一見似た特性が見られるものの、どこかようすの違うお子さんがときどきいらっしゃいます。そういうお子さんが、じつは心理的虐待やネグレクト(養育放棄)をふくむ虐待、あるいは虐待とまでは言えなくても養育環境が適切とは言いがたく、それが心の育ちに大きな影響を及ぼしていると判断せざるを得ないケースがまれではなくなってきているように感じられるのです。

いまそうしたお子さんについて「発達性トラウマ障害」という概念が提唱されています。「第4の発達障害」と呼ぶ専門家もいます。ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如多動症)といった発達障害と行動上だけでは区別しにくいということもありますが、もう一つ、もともと発達特性をもつお子さんが、要求や気持ちのわかってもらいにくさもあって、やりたいことを制止されたり、きつい言葉で叱られるなどネガティブな経験を積み重ねてしまいやすく、そのためにもともとの特性に加えて二次障害としての発達性トラウマ障害を合併してしまうことが決して少なくないのです。

家族丸ごと支える支援が必要

もちろん、好きこのんで不適切な養育をする親はいません。「ワンオペ育児」が話題になりましたが、どう育てていいかわからず、困ってネット検索するとこんどは情報の氾濫に飲みこまれるなど、さまざまな経緯から意図せずそういったところに追いこまれてしまうことがほとんどだと思います。

そうなると、お子さんを「療育」「指導」するだけではどうしても不十分です。お子さんを中心にご家族を「丸ごと」支える、そういう支援こそ必要であり、わたしたちは微力ながらそうした支援のあり方をめざして模索を続けているところです。

行政には、児童相談所や市区町村の子ども家庭支援部門のさらなる拡充はいうまでもなく、わたしたちのような児童発達支援事業者についても、保護者カウンセリングを専門とするスタッフの配置に対する体制加算や、保護者カウンセリング加算を算定できるようにするなど、幅広い対策を進めていただければと思います。

発達性トラウマ障害かも?保育者向けチェックリスト

さて、ここからは保育者の方必見、Cosmoリバシティオリジナルのチェックリストです。気になるお子さんのようすでチェックリストと一致する点が複数あるようでしたら、発達性トラウマ障害の可能性を疑って、ぜひいちど専門機関や専門家にご相談ください。

  • 保育者にベタベタとまとわりつくように身体接触を求める。
  • 離席があるが、何かに気をとられてというより、保育者の注意を引こうとしている。
  • 集団での活動を「やりたくない」と拒否し、別行動を要求して保育者を独占したがる。
  • ささいなことで怒りを暴発させる、おともだちのおもちゃを奪うなどの衝動的な行動が目立つ。
  • 積み木や砂山を壊す、描いた絵や折り紙など制作物をハサミで切り刻むといった破壊的な行動が目立つ。
  • 「ぼくはバカ」「私は悪い子」など自己否定的な発言がある。
  • 突然の大きな声や物音にひどくおびえるようすがある。
  • 自分の頭を叩く、壁に頭を打ちつける、自分の手や保育者の手を噛む、髪を引っ張るなどの自傷・他害行為がある。
  • 自由画で黒やこげ茶、紫など暗い色ばかり使う。お母さんにしかられて泣いている自分など、ネガティブな場面を描く。
  • 実在しない人物と遊んだなど、空想上のできごとをあたかも現実のことのように語る。

あてはまる項目が複数あり、発達性トラウマ障害が強く疑われたら、まずはお気軽にご相談ください。適切な支援機関を一緒に探しましょう。

【参考文献】

小野真樹:発達障がいとトラウマ-理解してつながることから始める支援。金子書房、2021。
ベッセル・ヴァン・デア・コーク:身体はトラウマを記録する-脳・心・体のつながりと回復のための手法。紀伊國屋書店、2016。
国立成育医療研究センターこころの診療部:子どものトラウマ診療ガイドライン第3版、2019。こちらからダウンロードできます→ https://www.ncchd.go.jp/kokoro/disaster/to_torauma_Ver3.pdf

【この記事を書いた人】

なおき:理学療法士歴25年。こども病院のNICUから重症心身障害児(者)施設まで、さまざまな場所でずっと子どもと関わり、運動発達の視点からサポートを続けてきた。