「活発に動いているから運動発達は問題ない」という判断は果たして正しいのでしょうか。
椅子にすわっていられないこどもたち
じっとしていることが苦手でつねに活発に動き回っているお子さんについて、ご家族やまわりの大人、ときには療育・医療関係者までが「この子は活発に動き回っているから運動発達は問題ない」と決めつけてしまっていることが少なからずあるように思います。
いつも活発に走り回っているお子さんが幼稚園の朝の会になると、椅子の上でからだをぺたんと二つ折りにして、床に両手をついて支えていることがたびたび見られます。そうするとこんどは「前を向いてちゃんと座ってね」と注意されてしまいます。
そういうお子さんをいくら注意したところで、前を向いて座っていられるようにはなりません。座っていられないのは意欲がなかったり、あるいは集中力が足りなかったりするせいではなくて、運動機能の問題だからです。
筋肉によって役割が違う
スポーツ科学に関心がおありの方なら、アウターマッスル、インナーマッスルという言葉をご存じかもしれません。
人間のからだには600以上の筋肉が存在しますが、筋肉は何層にも重なっていて、皮膚に近い表層にある筋肉(アウターマッスル)と、骨に近い深層にある筋肉(インナーマッスル)に大きく分けることができます。筋肉によってそれぞれ得意な働き方が違うのです。表層にある筋肉の多くは、いくつもの関節をまたいでついていることが多く、どちらかというとからだを大きく、速く、力強く動かすことが得意です。
それに対して、深層にある筋肉は、だいたい1つの関節しかまたぎません。その関節を固めて安定させることが得意です。浅層の筋肉はからだを動かすこと、深層の筋肉は姿勢を安定させることというように、筋肉によって役割分担しているのです。
発達のバランスが崩れている可能性も
筋肉は使うことで発達していきます。
あかちゃんの頃からいろいろなことを経験していく中で、筋肉が発達していくのですが、じっとしていられなくて動き回るお子さんの場合、からだを動かすための筋肉はどんどん発達していくけれど、姿勢を保つための筋肉はなかなか発達が進まず、両者のバランスが崩れてしまっているということが考えられるのです。
そういうお子さんに踏み台の上に立ってもらったり、一本橋の上を歩いてもらうと、体幹をクネクネさせ、両腕をブンブン振り回してなんとか落ちないでいられるような感じになるはずです。もしそうであれば、筋肉の発達が偏っているかもしれません。
アスレチックや揺れ遊具など、からだの安定を要求される遊びを通じて、全身の筋肉が偏りなく発達していくよう促してあげる必要があります。
姿勢を保てることは発達の土台
いい姿勢を長く保っていられることは、視線をしっかりとコントロールして、一つのものを集中して見続けるためにも必要で、それが注意力や集中力、相手の表情を見て相手の気持ちを想像しながらのコミュニケーションもそこから育っていきます。また、手を使うさまざまな遊びや生活動作の行いやすさにもつながっています。
運動機能の発達は、このようにさまざまな面の発達の土台です。そこをしっかりさせてあげることが、認知やコミュニケーション、行動や社会性の発達を促すうえでも大切なのです。
【この記事を書いた人】
なおき:理学療法士歴25年。こども病院のNICUから重症心身障害児(者)施設まで、さまざまな場所でずっと子どもと関わり、運動発達の視点からサポートを続けてきた。